ここ最近の、手ごしらえの成果をいくつか。
【意匠・衣装・異象】
ワンコインショップで売られている、なんの変哲もない真空マグ。
あまりにも殺風景で、風邪をひきそうなため、まずは革のはぎれで、チョキチョキトッチン、チョキカッチン。銅製品で名高い、新潟は燕市の茶筒仕様に。並んだ真鍮のぽっちは、親指のすべりどめをかねている。
ふたも同じく、金づちでトッチンカッチン、アルミ板の叩き出し。
デコとボコの、デコの出っぱりを、紙やすりでさっとなでることで、思わぬ模様が浮かび上がり、予定変更。つまみの部分をガーデンクォーツにすることで、光が乱反射でもしたような、あらたな顔がお目見えし、マグにも衣装とはまさしくこのこと。
【たましい礼拝堂(1/1)】
ふと気が向いて、ル・コルビュジエが晩年に設計したロンシャン礼拝堂を作りたくなる。
材料は石膏粘土、問題は縮尺だ。ジオラマ職人の豪胆さで、ひと部屋を占領させるわけにもいかないし、かといって小さくしすぎると、せっかくの細部が妥協との戦いになる。
理想は、作業机の片隅における邪魔にならないサイズで、日々のほこりを栄養として歳を重ねるような、ウェザリングの汚し仕立て。
さて、先人たちはどのような仕事を残したのだろうと、「ロンシャン礼拝堂・石膏模型」で検索をかけてみる。さっそく、逆立ちしてもたどり着けないプロの仕事、植野石膏模型製作所製の、1/400スケールの模型に目を惹かれる。見れば見るほど釘づけになる。むしろこれでいいじゃないか、理想の極北じゃないかと、ひと晩寝かせたのちに、財布と相談し、納得の結論。
しかし残念ながら、発売は2015年、限定数300ピースで、どこにも販売ページがない。会社の電話番号さえない、ひと目で詐欺とわかる2割引の通販サイトが、いくつかヒットするばかりで。
しかしそこは、大胆不敵の乙女座O型、ダメ元で直接、植野石膏模型に問い合わせると、なんとまだ在庫があるという。というわけで、渡りに舟、ご厚意に甘え、無事に手元に届いたのだが、あまりにも完成度が高く、階段の手すりなど、大げさでなく髪の毛ほどの細さだ。これはいたずらに、素人仕事でウェザリングするべきでない、モネの睡蓮に、鼻息荒くイボガエルの群れを描き込むような、素っ頓狂の狂介のダメしぐさだ。
というわけで、一点ものの工芸品を一時的にあずかる心持ちで、模型に邪魔をしないかたちで、(1/1)のジオラマ作品をこしらてみる。
イメージは、地上と天国のはざまに人知れず鎮座する、無人の煉獄だ。
井戸の底よりのぼってきたたましいは、はしごを伝い、ちり一つない礼拝堂に足を踏み入れる。そこは心を平らにし、たましいを白くととのえる唯一の場所である。
軽みを増し、旅立ちの支度をととのえたたましいは、薄れゆく素足で、白の敷石を歩き、いにしえの部族に伝わる、二叉のはしごに足をかけ、天にかえっていく。常緑の、草の香りをまとって。その草の名も、思い出も、いずれ何もかも忘れて。