2015年10月13日

お気に入りの品々 その5 『相棒石(あいぼういし)』

華美に身体を飾り立てるもの、たとえばカットに工夫を凝らした宝石や、ドクロや龍をかたどったシルバーアクセサリーには、「食指」が動きません。根拠の定かでないパワーストーンや、日を選ばない数珠のブレスレットなども、身につけません。

かといって、「さらし身」で勝負したがる、偏屈な人間というわけでもないのですが、アクセサリーが身体の一部となるまでには、やはりある程度の時間と、血の通った物語性が不可欠になります。


TRIPTRACKS(トリップトラックス)、関田裕明さんの作品です。
南米で盛んな、蝋引きのひもを編んでいくマクラメ。世界各地を旅してきた関田さんが、現地でその手法を学び、独自に進化させ、外房を中心に、おもに千葉で開かれるイベントで、心地よい異国の風を吹かせています。

何度かお見かけし、少しばかり話をしたこともあったのですが、こちらの鍋底は分厚く、なかなか水が温まりません。大してほしくもないものを買って、使わずじまいのまま引き出しの奥に眠らせておくのは、あまり好きではないし、作り手に対して失礼であると、個人的には考えています。

そんなおり、関田さんが中心となって主催された「房総てしごと博覧会」というイベントにて、じっくり話を聞く機会が訪れたのでした。マクラメ作りについて、また、世界各地を旅して撮りためてきた、色鮮やかな写真について。

もちろんそんな短い時間で、十全に人となりを知ることなど不可能ですが、言うまでもなく、通信販売のページからお気に入りの写真をクリックし、購入にいたる過程とは、その道筋が違います。

大小様々、種類もまた様々な、何百という石の中から、「これぞ」という目にかなったものを選び、それに合わせて、ひもの色、石を包むその形を、あれこれ思い悩む。
正直なところ、一つ一つに時間をかけすぎる、かなり厄介な客だったとは思うのですが、関田さんはこちらが思い描く理想の形を、ときに楽しげに、紙の上に書き起こしていく。


その仕上がりは、予想をふた目盛りばかり上まわる、満足のいくものでした。
華美すぎず、かといって地味すぎず、その「しっぽ」にも、こちらのリクエストどおりの遊び心が取り入れられている。中央に鎮座する石には、もちろん名前や学名があるはずですが、あえて覚えようとはしませんでした。(それはほんのいっとき、尋ねた人を満足させるための、石そのものにはなんの関係もない知識にすぎませんから)

「ハレの日」だけに身につける、高価なアクセサリーを否定する気は毛頭ありませんが、やはり個人的には、持ち主と同じ風景を見てきた、その歩みがほのかに感じ取れる「体温のある相棒」のほうが、好みかもしれません。

(背景のオブジェは、筆者作)