はじまりは、分断のつづく辺野古の泣き浜
ひと気なく、抗議の看板もすべてはがされ
遠く響く、ブルドーザーのうなりに圧され
すでに下火かと思われた、北上への道
キャンプシュワブの入り口に、しゃがみの人鎖
うちわ太鼓を響かせる10人ばかりの老人が
車窓ごしの数秒、目尻から消えて、陽に白む
ヤンバル、八百万、石の森
陽とかげり
隣り合わせで
交わらぬ
宿泊したオクマビーチの遠く
沖縄愛楽園の敷地から望む
一方通行の歴史横たわる、無名の浜
橋三景
一村のアダン
偶然の額縁
東亜の妖精
今帰仁(なきじん)グスク再訪
15年前の中城(なかぐすく)だったか
丸まった子象ほどの、茂みの葉むらから
蝶の群れがいっせいに飛び立って
白い、ひらめきの花を目の前で咲かせ
白昼の夢に、しばし立ち尽くした思い出
色と人の洪水
波と人の止水
久高島への道しるべ
15年前に訪れた本島南部の
斎場御嶽(せーふぁうたき)
コロナと、香炉盗みのため
大岩の切れ目を抜ける最奥の
ささやかな祈りの場への道は
すでに閉ざされたと聞く
拝所、三庫理(さんぐーい)
ひだまりの石畳から目を移せば
緑の雲海を横切らん、蝶のつがい
はるか遠く、水平線に久高島がにじみ
焦がれは冷めることなく、結晶化する
狛犬ならぬ、島の狛猫、凛として
多くの訪問者が、レンタサイクルで最奥の
カベール岬を目指すようだが、そこはへそねじれ
次のフェリーまでひたすら、民の暮らしを巡り歩く
京都の寺社の密度より、島の拝所は濃く
御嶽(うたき)銀座のおもむきで、神々が集い
ファーブル嘘つかない、歩いて大正解だった
足下ではヤドカリが、取っ組み合いのお家騒動
頭上では当たり前のように、桑の実が黒々とみのり
我ここにありとばかりに、ごんたくれの足跡が点々と
帰島し、人間世界に身体をならす
最終日、時計の針にしばられず
ひめゆりの塔と、平和祈念公園へ
献花売り場の、ニコニコおじぃ
おまけのハイビスカスをつけてくれ
ならばこちらも、おつりの百円玉を、笑みがえし
途切れた命のつづきを胸に
心しずかに、空に昇る
つぎはぎのまほろば
窓の向こうに
詩集『九月十九日』より
「てぃんさぐの花」

