2019年9月15日

夏旅 2019

太陽がまぶしいので、半月ほど旅をしてきた。



北は新潟の佐渡島から、南は神奈川の城ヶ島まで、おおよそ2300キロの道程。
フェリーに揺られ、タライ舟に揺られ、過去現在を問わぬ、作り手たちの手汗のあとに心を揺さぶられる、思惟の入道雲が湧いては尽きぬ充実の旅となった。

茨城は五浦での、入江明日香さんの華やかな展覧会を皮切りに、かの地での、岡倉天心の夢の瓦解、潮風をまとう草むした土まんじゅう、内陸で偶然出会った、斎藤清の禅的な版画群、佐渡島での、工芸のほだしが解かれた本間一秋の竹芸術、能登島での、塗りむらを恐れない角偉三郎の反骨の漆使いや、荒川豊蔵が掘り起こした、一度は途絶えた土岐の緋色をいまなお真摯に引き継ぐ、加藤孝造、鈴木蔵の志野焼、そのほかにも、数々の印象的な風景、旅人との出会い、そのつながりで偶然にも目にすることになった、富山八尾のおわら風の盆など、なんだか手持ちの薬棚が色鮮やかなエピソードで次々に埋まっていくような、滋味深い、飽きしらずの毎日で、よく歩き、汗をかき、6つ訪れた水族館のひとつでは、ごきげんなカマイルカと握手もかわした。

そして何より、この旅でもっとも印象に残ったのは、富山から少し下った南砺(なんと)の地で、木彫と仏画の修業をされている菊池侊藍さんにお話をうかがえたことだろう。いろいろお気づかいをいただき、足を崩すことさえはばかられる工房にて、渾身の作品を見せていただく僥倖に恵まれた。年齢、性差は関係なく、ただただ道を極めんとするその姿勢に圧倒され、下手に感想をこぼすことさえできなかった。どんな言葉も軽くなってしまうような、日々の修練の火影(ほかげ)が、そこにほの見えたからだ。

作品は体をあらわす、ではないが、その指先から産み落とされる龍は、今後ますます天高く躍動し、感銘と福音をはらんだ不死の雷鳴をあまたにとどろかせるだろう。偶然だが、私も辰年、いつの日か何かの大きな記念として、作品を依頼できればと考えている。精進せねば。無二の日輪を仰ぎ見て。

2019年8月30日~9月13日