2015年12月1日

紙の詩集 『九月十九日』 発売のお知らせ

ふらんす堂より、紙の詩集『九月十九日』が発売されました。


収録作品は28篇、『現代詩手帖』に掲載された7篇と、部落解放文学賞の受賞作「15歳の君に」が含まれており、その作品の並びは、打ち寄せる波をイメージしております。
「抽象的な言葉の旋律」と、「物語性をはらんだ散文詩」の、大波小波が、交互に際限なく打ち寄せるイメージです。あるいは、心電図が指し示す、鼓動の波形(はけい)にたとえてもいいかもしれません。



表紙の絵は、画家の玉川麻衣さん、オビ文は、詩人の河津聖恵さん、編集と、その他もろもろは、ふらんす堂の右心房、山岡有以子さんです。

表紙絵の題名は「膨れてしまう」、すでに作品が個人蔵であったために、再撮影にあたり、持ち主の方の協力を仰ぐことになりました。こころよく貸して下さったことを、ここに感謝申し上げます。

【表紙絵「膨れてしまう」について】

この絵との出会いは、玉川さんとお知り合いになった2013年の秋ごろで、「マジックリアリズムの血が躍動する、すごくいい絵だな」というのが、率直な第一印象でした。そしてしばらくの時を経て、詩集の表紙をあれこれ考えていたときに、ふと、入道雲でも湧き出るように「膨れてしまう」の脚立にのった赤ん坊の姿が、思い浮かんだのでした。
不安定な脚立の高みに立ち、自分の手には負えそうもない名前の定かでない何物かを、必死につかみ、その手に抱きかかえようとしている。一人きりの、さらし身で。
なんだかそれは、いま現在の自分自身を、そっくりそのまま投影したような、あるいは、これから進むべき道を指し示す、「導きの絵」のようにも感じたのでした。また、詩集の内容そのものを、大きくくるむかたちで示唆しているようにも思え、玉川さんのお力を借りる運びとなったのでした。

【オビ文について】

河津さんとは、詩の表彰式で三度ばかりお目にかかり、丸テーブルを囲んでの食事会で少しばかりお話しをする機会があったのですが、どちらかというと、その作品やツイッターを通してのほうが、(あくまで一方的ですが)言葉を必要としない会話を交わしているような気がいたします。
オビ文を頼むきっかけになったのも、ある日のツイッターの一文によるところが大きいです。

201591日 投稿〉
『かつての政治の季節を体験した詩人たちが、国会前のデモなどをどう感じているのか、あまり聞こえてこない気がする。つまり批判的な意見も少なくないのかなと推測するのだが、ぜひ真意を知りたい』

もちろん収録作のすべてがそうではありませんが、詩集『九月十九日』には、ゆるやかな地下水脈として、あるいは不断の通奏低音として、反戦詩の血が滔々(とうとう)と流れています。若干、その色味が強すぎるきらいさえあります。
直接的な表現・声高な訴えは、下品であるとの信念で、あえて湾曲させている部分も少なからずあるのですが、それでもたしかに、いまを生きる書き手の使命として、かたくそのこぶしを握りしめているつもりでいます。

それらの思いを河津さんにメールで伝え、実際に詩集のデータを読んでもらった上で、詩情に富んだすばらしいオビ文を2篇(!)も送って下さり、そのうちの一つを、僭越ながら採用させていただいたのでした。
以下に、あらためて。

世界は壊れても、世界のかけらたちは壊れないか?
ひとは昨日死んでも、明日生きることはできるか?
鍵をもとめて檻に傷つくみえない痛みに意味はあるのか?
詩人は寓意と物語によって問いかけの旅をつづける。
小さき者たちの腕と指がつかめなかった
銀河のかすみ草を抱きしめるために。

河津聖恵


【終わりに】

もちろんこの世界に本を送り出す以上は、さらに言うなら、歯を食いしばって我が子を産み落とす以上は、少しでも多くの人の手に行きわたってほしいというのが、正直な気持ちです。しかしながら、フランツ・カフカや宮沢賢治がそうであったように、目をつむり、両耳を押さえつつ、自分の進むべき道を迷いなく、まっすぐに歩き続けるのもまた、素晴らしい生き方の一つであるとも思うのです。真っ白な丸石をふところにたずさえ、澄み切った水をたたえるただ一つの深井戸を目指して。

詩集の刊行にあたり、お力を貸して下さった皆様に、あらためて感謝申し上げます。
ありがとうございました。

題字と著者名は、いぶし銀の箔押し

オビには表紙の絵を、淡く刷っている

ワンポイントで、えんじ色のアクセント

ローマ字の題名を、大胆に「から押し」

苔色の布地は、ふぞろいな遊びごころを

すっきりとした角背、ローマ字だけ「から押し」

表紙と喧嘩しない、シックなえんじ色

とびら絵の紙は、少しノスタルジックな色味を

鉱物のような、ざらっとした手ざわりの楽しさ

花ぎれとスピンの色は、背表紙のワンポイントと手をつながせて

28篇の詩の森が、旅人の訪れをお待ちしております